三井記念美術館・樂茶碗展
 天高く馬肥ゆる秋。澄んだ青空にこの時季特有の券雲(けんうん)が刷毛目を描いて、赤とんぼの群れがさわやかな風の中を渡っていきます。昨日の午前中、山手公園のテニスコートでたくさんの赤とんぼの群れが東の方角へ向って飛んでいくのを見ました。既にパートナーを見つけて二匹で連なって飛んでいるのや、未だ一匹でうろうろしているのも居て、昆虫の世界も競争社会なのだなと思いつつ、心地よい風を感じながらボールを追いかけていました。
 先週、日本橋の三井記念美術館の開館一周年記念特別展「赤と黒の芸術 樂茶碗」を観てきました。楽焼きと言っても行楽地によくあるやつではなくて、千利休の時代から脈々と続くお茶碗師の樂家のやきものです。初代長次郎、常慶(じょうけい)、三代目道入(どうにゅう:通称ノンコウ)から、現在の十五代目吉左衛門さんまでの歴代の作品が一堂に会し、これほどの展示は今までなかったのではないかと思うくらい、非常に充実しています。
 まず初代長次郎の現存する作品の中では最も古いといわれる獅子像留蓋瓦、黒樂茶碗の「大黒」「ムキ栗」「俊寛」「面影」「あやめ」、赤樂茶碗の「無一物」「一文字」、また田中宗慶の「天狗」、常慶の「黒木」、道入の「鵺(ぬえ)」「荒磯」等等、いずれも単品で企画展の目玉となりうる作品ばかり(一部展示時期に変更があります)。会期は11月12日(日)までですので、芸術の秋に是非お出かけ下さい。
【2006/09/29 21:10 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
志野焼について
 朝夕は随分過ごしやすくなりました。ここにきて台風が近づいているようですのでどうかご注意下さい。それから残暑見舞いのお葉書や久しぶりのメールを下さった方々にこの場を借りてお礼申し上げます。楽しい思い出ばかりで私も幸せを感じています。いつかまたお会いできる日を願っております。
 さて、初級・中級コースの皆様は三ヶ月が経過しました。手びねり、タタラ作り、電動ロクロと少しずつ難易度が上がってまいりますが、10月は志野茶碗を作りますので、簡単に志野焼についてご説明したいと思います。
 まず粘土ですが、一般的には五斗蒔土(ごとまきつち)というものを使います。五斗蒔というのは現在の岐阜県土岐市近郊の地名から由来するのですが、キメが荒い感じの粘土です。陶芸では「ざんぐりとした」という表現をよく使いますが、ガサッとした肌触りの焼き上がりになります。桃山時代の志野焼はこの種の土以外にもキメの細かい粘土を用いたりしているので、おそらく窯の近くで採れる粘土は片っ端から焼いてみたのではないでしょうか。現在まで伝世している名品といわれるものも、初期の頃はテストも兼ねて試しに焼いたものだったのかもしれません。近・現代の陶芸家や窯元も志野焼には基本的に五斗蒔土を使いますが、様々な粘土を用いて個性を出したり、コストを抑えたりしているようです。五斗蒔土に限らず伝統的なやきものの粘土が減少しているのは、どこの窯業地でも抱えている問題です。陶芸家によっては山を所有していてそこから採れる粘土を使用したり、粘土の採掘業者さんと契約して仕入れたりしているようです。教室では業者さんますが、削りかすなども再生して使っています。
 それから焼成についてですが、教室では四日間かけて焼いています。通常、教室では酸化・還元焼成(のちほど説明します)ともに丸一日で焼き上げますが、志野焼が何故他のやきものよりも時間をかけて焼くのかと申しますと、釉薬に使われている主成分の長石が融けにくいということと、冷ます時間をより長くしたほうが志野焼の特徴である緋色が出やすいためです。
 焼成はまず第一日目に900度前後まで温度を上げておきます。二日目は朝から夜まで12時間かけて950度から1230度まで還元焼成で温度を上げていきます。還元焼成というのは窯の中の酸素(空気)をできるだけ少なくする焼き方です。酸化焼成はその反対に窯に空気をたくさん入れて焼きます。三日目は1230度のまま酸化焼成に切り替え1050度まで下げ、四日目は1050度から900度まで下げて火を落とし、さらに二日ほどおいて窯の余熱がとれてから作品を窯出しします。窯元や陶芸家によって最高温度や焼成時間、また還元焼成から酸化焼成に切り替えるタイミングがかなり違います。他のやきものに比べて焼成が難しく、人間国宝の鈴木蔵さんは五日間焚いて五日間かけて冷ます焼き方をされているようです。
 長くなってきましたので今回はここまで。次回は伝世品や作家さんについてご説明したいと思います。
【2006/09/22 14:50 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
夏の終わり
 真夏のような週明けから、日中でも寒いほどの気候に急展開、スポーツや芸術の秋が一気に到来したようです。
 先日、テニスで張り切りすぎて膝を擦りむいてしまいました。大した怪我ではなく、テニス仲間からは「いい年して膝にカサブタできてる大人って、あんま見かけないよね」と意外にウケたので、それはそれで良かったのですが、お茶会が近いというのに正座ができない日が続き少々あせりました。結局二週間もしないうちに完治したので一安心ですが、体力づくりも度を越すと日常に支障が出ます。
 さて、暑かった日曜に限って窯焚きの当番でした。初級・中級コースの皆様にとっては初めての作品ということで、非常にプレッシャーを感じました。朝10時から夜の8時までほとんど窯の前で過ごし、その暑さたるやまるっきり荒行のようでしたが、黄瀬戸も備前の火襷も良い色が出たと思います。違う曜日の生徒さんの作品も合わせて展示してありますので、是非ご覧下さい。
【2006/09/15 17:40 】 | 未分類 | コメント(2) | トラックバック(0) | page top↑
パスタ皿
 教室の近くにⅤさんというイタリア食堂があります。(とてもリーズナブルで美味しいお店です。インターネットは思わぬ事態を招く恐れがありますので、残念ですがあえて店名は伏せておきます。)私は週一程度の割合でランチを頂いているのですが(ランチって表現、昔は使わなかったなぁ。でも昼食っていうのもイメージと違うし。)、このたび私共のスタッフがⅤさんからご注文を頂き、パスタ皿を制作いたしました。それまでⅤさんでは磁器のパスタ皿を使っておられたのですが、今回Ⅴさんからお皿に描くデザインを頂き、陶器で作ったのです。陶器は磁器に比べ、店舗で使用される場合、特に耐久性という点でひけをとります。家庭で使用されるものよりも、衝撃に対する強度や油汚れ等による表面劣化という点をどのようにクリアするかというのが重要視されます。スタッフが陶器で制作に入ったことを知った時点で、私は正直一抹の不安を覚えました。
 先日、Ⅴさんは私にいつもと同じパスタをその陶器のお皿で出してくれました。普段と変わらぬはずの見慣れた盛り付けが、その時全く違う印象に感じられたのです。私の不安は良い意味で覆されました。磁器ではなく陶器の持つ質感が非常に温かみを持って、まるでⅤさんの料理に込められた愛情がそのまま伝わってくるようだったのです。スタッフの作品を手放しに賞賛しているのではなく、もちろん強度や表面劣化等については今後の使用経過を充分に把握しなければなりませんが、純粋に料理と器との関係や、物を作るだけでなく鑑賞することの大切さを改めて考えさせられる良い機会となりました。
【2006/09/08 17:06 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
伝統家具&全国工房クラフト展にて
 先日、日本橋高島屋にて開催された「伝統家具&全国工房クラフト展」に行ってきました。この企画は私の出身校の京都伝統工芸専門学校が中心となっておりましたので、自作の志野茶碗なども展示・販売させて頂き、お客さん目線で自分の作った陶器を見る機会に恵まれました。陶芸ばかりでなく、漆芸、木工、金工、竹工などで作家活動をしている卒業生の作品も多数あり、どれも素晴らしい作品ばかりで大変興味深いものでした。
 私自身は陶芸教室が本職で作家活動は基本的にしておりませんが、それでも何らかの企画を頂いた時に、自分なりに制作したものがあれば出来るだけ参加させて頂こうと思っております。いわゆる桃山陶と呼ばれる黄瀬戸、志野、唐津などの写し物(古い作品のコピー)で、いくつか手元にあった抹茶碗や水指、向付(むこうづけ:懐石用の器)といった茶陶を出させて頂きましたが、今回、ご来場下さったお客様が志野芦文矢筈口水指(古岸写)をお買い上げ下さったようです(中間報告なので詳細についてははっきりと分かりません)。嬉しい感情はとてもあるのですが、それ以上に不思議なご縁を感じざるを得ません。これまでの人生で一度も出会うことのなかった人間同士が、やきものを通じてかすかな接点を持ったこと。それがあまりに頼りなく覚束ないからこそ、この二人の何らかの共通性に私は興味をそそられてしまうのかもしれません。これが作家活動の大きな魅力の一つでもあり、また恐ろしい部分でもあるわけです。一所懸命作った品でも、大きさや形や色、また販売価格や販売時期、場所などといった、ほんの些細な条件によって、出会うべく人とすれ違うことも多々あるからです。
 これは陶芸教室でも、或いは日常生活でも同じことかもしれませんね。誰かと出会うということは様々な条件が重ならないと起こりえないことでしょうし、出会ったとしても些細なすれ違いでなかなか分かり合えずに過ごすこともあり得る事かもしれません。いつも心のアンテナを大きく広げて、色んな信号をキャッチしていきたいと思います。
 今日から9月ですが、今年は随分と秋の訪れが早いような気がします。車で家に帰る時、普段はラジオをかけているのですが、昨夜は窓を開けながら、そこここから聞こえる虫の音を楽しみながら家路に着きました。下旬にはお茶会もあり(しつこいほど宣伝を)あわただしさも感じますが、季節の移ろいを楽しんで過ごしていけたら良いなと思っています。
【2006/09/01 16:59 】 | 未分類 | コメント(2) | トラックバック(0) | page top↑
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