あの頃
暦の上でも大寒の朝、いかがお過ごしでしょうか。

ちょうど本日より、懐かしい昭和の日本を舞台にした映画が封切られますね。

若い世代の方々は、この映画にどのような印象をお持ちでしょうか。前作、前々作では、テレビを持っている家がまだまだ珍しかったり、東京タワーが着工したばかりと、私自身も体験していない時代と空間でありながら、なんとなく古き良き昭和の香りを感じました。

高度成長期という、人々の生活が豊かになりつつある時代。隣近所の交流もごく自然に存在していたため、「良い時代」だったという印象なのでしょうか。

逆に今の時代は、戦前戦後を通じても最悪だという有識者の方もいらっしゃるようですが、何十年後に「現代」を振り返ったとしたら、どのような印象を持つのでしょう。

少し話が変わりますが、私が社会に出た頃、ポケットベルという通信機器がありました。若い世代ではもうご存じない方もいらっしゃるようで、そんなところにも時の流れを感じますが、このポケットベル=略してポケベルは、今から20数年前には大変需要が多く、広く普及していました。

初期のタイプは、ただブザーが鳴るだけのものでした。一台ずつ電話番号があるのですが受信のみで、簡単に言うと電話の着信音だけが鳴る小型端末機器です。すぐに振動するタイプのものも出ましたが、いずれにしましても、当初は個人が使うのではなく、多くは営業マンなどのように、会社から出て外回りする会社員が「持たされる」ものでした。

と申しますのも、日中、取引先と外回りの営業担当者との連絡は、携帯電話がまだほとんどなかったため(すごく高価な自動車電話など、ごく僅かには存在しました)、取引先が会社に電話をし、会社から営業マンのポケベルを鳴らすと、「至急会社に電話しなさい」という意味だったのです。それ以外の理由でポケベルが鳴ることはありませんでした。

ポケベルが鳴りますと、営業マンは公衆電話を使って会社に電話をかけ、用件を聞き、しかるべき対処をする訳です。

実は私も営業マンをしていたことがありましたが、入社したてで大した戦力にならない営業マンは、ポケベルを持たせてもらえませんでした。日中自分宛にどこからも連絡がなければ、ポケベルで呼び出す必要がないからです。

しばらく営業活動を続けるうちに、次第に色々な取引先から日中会社に電話が入り、連絡が必要になることが増えてきますと、ポケベルを持たせる一つ前の段階、定時連絡を入れるように会社から言われます。

例えば朝10時に外回りに出て、午後4時に帰社していた者が、昼12時に一度定時連絡を会社に入れるように言われます。

午前中に取引先から何件か用件があれば、この定時連絡によって対処できるようになるのですが、次第にそれだけでは緊急の対応が困難になってきますと、ようやくポケベルを上司から渡されるのです。もちろん通信費用等は一切会社負担ですが、それに関わる公衆電話の料金は、各企業によっても色々と違っていたようです。個人負担の会社もありました。

初めてポケベルを手渡された時は嬉しかったです。ようやく他の先輩営業マンの仲間入りをしたように感じました。しかしその喜びもつかの間、2,3日もして、やたら呼び出されるようになると、今度はウンザリしてきます。

ポケベルが鳴って、会社に電話すると「今どこに居る?」、「○○社の近くに居るなら△△君の代わりにすぐ行ってくれ」、「□□社の報告書がおかしい」等、大抵はその日予定していたスケジュール外の行動を取らされることが多いからです。

マッチ箱くらいの大きさですが、すでにマッチ箱もこの世にない…。付属のチェーンは落下防止のため、ポケットの端などにクリップ留めします


ポケベルは電池式なので、外回りに出る時に電源を入れ、帰社したら電源を切ります。

ところが、うっかり者はどこにでも居るもので、ポケベルを持って行きながら電源を入れ忘れるということが、割とよくありました。

会社から何度ポケベルを鳴らしても、折り返し電話がかかってこない。そんな時に限って取引先からの急ぎの用件で、先方からも「まだ連絡取れませんか?」と催促が入る。

結局、営業マンが帰社するまで手の打ちようがなく、帰社するなり「ポケベルの電源入れ忘れただろ!」と叱られる。その時の社内に飛び交う冷ややかな視線。仕事ができない奴!といった空気が流れたものでした。

それから、最近の営業マンは分かりませんが、20数年前の営業マンは、成績至上主義だったので、一日会社から出てしまえば、極端な話、何をしていても良かったのです。毎月の売上目標額さえ到達していれば、遊んでいても良かったのですね。

そんな訳で、自分の担当地区外に出て、ちょっと息抜きしているような時に、ポケベルが鳴ると、ドキッとしたものです。「すぐ社に戻れ」と言われても、遠くに居たりするとそうはいかない。帰社するのにいつもより時間がかかるので、前もって言い訳を考えながら戻ったりします。

そこで、「今日は営業しないで一日息抜き」なんて一人で勝手に決めて、のんびりしている時は、わざとポケベルの電源を入れ忘れたことにして、帰社した時に叱られても「すみません、電源入れ忘れてました」なんていうツワモノも居ました。これとは逆に、恐る恐る帰社しても、珍しく連絡事項がなかったのか、誰にも何も声を掛けられないとホッと胸を撫で下ろしつつ、バレていないか心配になったりして。

私自身は上記のいずれも経験がありませんが、営業マンの先輩方からは、途方もない武勇伝をいくつも聞かされたものでした。営業マンでも色々なタイプがいらっしゃって、記憶の中に100社以上の電話番号と担当者を記憶している人や、ポケベルを鳴らすと必ずその人のデスクの引き出しの中で鳴る人など、個性派揃いでした。

そのうち、ポケベルは次の進化を遂げました(この話やめられなくなってきました)。カタカナや数字で何文字かメッセージを送れるようになったのです。

例えば会社名を送れば、そこへ電話しろという意味なので、会社へ用件を聞く手間が省けるようになりました。また数字も取引先の電話番号にすれば同様です。

ここから飛躍的にその用途が拡大しました。個人でも使用する価値が見出されるようになったのです。

ポケベル全盛期、女子高生の方々などに大流行して、公衆電話待ちの長い行列が出来ました。急用でもなく、今で言うところのツイッター的な、つぶやきのような文言も多かったのではないでしょうか。「オヤスミ」とか「オハヨウ」とか「アケオメ」といった、現在のメールに近いものになり、そうして携帯電話の台頭によって、ついにポケベルはその役目を終えたのでした。

こんな長い話にお付き合い下さり、ありがとうございました。ほんの20年程前の、ちょっとしたエピソードのようなものですが、ポケベル一つとりましても、私には古き良き平成ひとケタ時代の思い出です。

その時その時、真剣に、一所懸命、精一杯、無我夢中で、何かに取り組んでいますと、どのような時代であっても、あとから懐かしくも愛しく感じられるものではないかと、ポケベルを思い出しながら、そんな気がいたしました。
【2012/01/21 10:56 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
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