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茶の道はヘビー?

 先日、大寄せの茶会でお点前をさせて頂く機会に恵まれました。大寄せの茶会というのは大きな広間に三十人くらい入って、お菓子と薄茶を戴くというものです。当日はお点前だけでなく、半東(注1)や後見(注2)のお手伝いもさせて頂き、水屋仕事(注3)も間近で見ることができましたので、初めての私にはとても貴重な経験となりました。裏方の仕事は目配りや間合いをとるのが難しいのですが、逆にもてなされる客の方もなかなか大変なのです。
 三十人くらいの客の中で一番上座に座る客を正客(しょうきゃく)といい、正客は席中でもっとも敬われます。そして一番良いお茶碗でお茶を戴くことができます。正客はあらかじめ誰かに決まっているということはなく(たまに例外もあります(注4))、誰でも正客になる権利があります。大抵は席入りした時の場の流れで決まりますが、最近の茶会では男性客が圧倒的に少ないので男性が席に入るとほぼ間違いなく正客に祭り上げられます。そして男性が居ない場合は女性たちの壮絶な譲り合いが始まります。正客になれば最高のおもてなしが待っているのに、日本女性の奥ゆかしさゆえか「どうぞどうぞ」と皆が口を揃えて一番上座に近い人を正客の座へ追いやろうとします。
 実は正客には重要な役割があって茶会の間中,後見と会話をはずませるという任務が待ち受けているのです。話術、茶道具に関する知識、茶道の所作などが当然必要で、茶道に精通した人でも基本的に皆やりたがらない訳です。うっかり正客になった日には、席中の人々からその力量を値踏みされることになるからです。
 もちろん中には内心正客になりたい客もいて、かといって自分からすすんで正客にはならず、少なからず皆から薦められてという段取りを踏まえてから正客になるのが一般的のようです。しかし誰も正客になりたくないという思いの人ばかりだと、茶会が始まる前にひと騒動起こります。
 客は茶席に一箇所から順に入りますので、誰も上座に近寄らないとなると入口付近で渋滞が発生します。席中には事前にそれを想定して誘導係としての半東が居るのですが、半東が上座を勧めてもテコでも動かぬといった形相で、皆入口付近で踏んばり、おかまいなしに座り込み、そのため後ろの客が入れなくなります。既に座っている人を後ろから蹴り飛ばして席入りする人はいないので、後ろの人々は着物なのに横歩きを強いられたり、踏まないように大股に渡っていかなければなりません。
 最後の客が入口のわずかな隙間からやっと席入りしたと思ったら、正客の座しか残っておらず驚愕してしまうことも少なくありません。できればその場を飛び出したいのでしょうけれど、それはこれまでの茶の道を断念することに他ならず、茶席をぐるりと取り囲んでこちらを見据えている遠慮深い?人々にすがるように正客を譲ろうと(というより哀願)するのですが、当然皆遠慮(というかきっぱり拒否)しますし、話しかけても地蔵のように押し黙ったままの人も居ます。こういう場合、正客を引き受けてくれる神様のような人が現れることは万に一つもなく、その間半東はこの正客の座に最も近い気の毒な客に対して同情しつつも、いい加減観念しろ!と心でボヤキながら土下座を繰り返します。正客が決まらなければ全く何も始まらず、いつまで続くのかと内心暗澹たる気持ちになります。
 このようなひと悶着を経て、運の悪い?誰かが正客となって、ようやく一席が無事始まるのでした。

 いくぶん茶化した描写になってしまいましたが、茶目っ気とか茶番という言葉にも茶の文字が使われていることに、茶道となんらかの関わりがあると思えてならない今日この頃です。


(注1)半東=はんとう。お点前をする人を東(とう)と言い、東の後ろに座って、点てられたお茶碗を正客まで運んだり、東の助手をする人。一般に東よりも経験のある人が務める。
(注2)後見=こうけん。一般に席主(せきしゅ)が務める。席主とはその茶会を開いた人、或いはその茶会の責任者。半東の後方に控え正客のお訊ねに答える。茶会の茶道具は基本的に席主が用意し、正客との会話は主にその日の茶道具に終始する。
(注3)水屋仕事=みずやしごと。大寄せの茶会で東は通常、正客と次客(じきゃく=正客の隣の客)の二人分のみ茶を点て、あとの客には点て出しといって、水屋で点てられた茶碗が運ばれる。そのために裏方は水屋で茶碗を温めたり、茶を点てたり、戻った茶碗を洗ったり、それに付随する諸々の仕事をする。
(注4)例外=席主の茶道仲間や師匠、或いはそれ以上に重要な人物などに前もって正客を依頼している場合がある。
(注5)この話はノンフィクションです。が、他の流派においてはこの限りではありません。

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